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事業承継QA04

従業員持株会を使用するメリットを教えてください。

従業員持株会について


 従業員持株制度は、一般的には上場会社のための制度と考えられており、最近まで非上場会社にとっては無関係のものと考えられていました。その理由は、非上場会社においては、株式に流通性がなく、また、そもそも配当をしていない会社も多く、従業員にとって導入のメリットが少ないと考えられていたためです。
 しかし、最近では、非上場会社でも、従業員持株制度を導入する会社が増えてきています。その大きな理由の一つは、相続・事業承継対策として、非上場会社においても大きなメリットがあるからです。
 そこで、今回は、非上場会社における従業員持株会の活用方法を、相続・事業承継対策の観点から簡単にまとめてみたいと思います。

1. 従業員持株会とは

 従業員持株制度は、従業員が自社の株式の取得又は保有に際して、会社が便宜(例えば、奨励金の支給)を与え、奨励する制度であり、このうち従業員によって常設機関として設立されたものを「従業員持株会」といいます。

 従業員持株会は、一般的には、民法上の組合(民法第667条)として設立され、従業員持株会自体には法人格がなく、また、通常は収益事業を行わないため税務申告は不要です。
 また、その株式等の財産は、組合員の共有となり、組合員が受け取る分配金は配当所得として課税されます(配当控除適用可)。

 従業員持株会には、以下のようなメリット・デメリットがあります。

メリット
 会
 社
 (1) 相続・事業承継対策(=自社株評価額の減少)
 (2) 株式の社外流出防止(=退会時の買戻し規定、買戻し価額の固定化)
 (3) 従業員の福利厚生政策になる(=高配当、奨励金制度の活用)
 従
 業
 員
 (1) 財産形成に役立つ(=高配当、奨励金制度の活用)
 (2) 会社が倒産しない限りキャピタルロスがない(=買戻し価額の固定化)
 (3) 経営参加意識の向上(=会社業績への関心向上)

デメリット
 会
 社
 (1) 業績低迷で高配当が維持できなくなると従業員の不信感を招き、経営に悪影響を及ぼす
  (=社員のモチベーション低下)
 (2) 退会等による換金の申し込みが集中すると資金不足に陥り維持できなくなる


 員 
 (1) 倒産した場合、職場も資産(株式)も失うことになる
 (2) キャピタルゲインを得ることができない(=買戻し価額の固定化)

 なお、従業員持株会は、そもそもは、従業員の財産形成、経営参加意識の向上等の「従業員のモチベーションアップと福利厚生」を目的として設立されるものであり、実質的に、相続・事業承継対策として利用する場合でも、この本来の目的を常に意識する必要があります。従業員持株会が、節税目的で形式的に設立したものと判断された場合には、その存在を税務上否認される可能性があります。そのため、従業員持株会を導入する場合には、上記のメリット、デメリットに加え、設立や運営についての法務・税務上の手続きをクリアできるか、また、それを維持することができるか等を慎重に検討する必要があります。

2. 相続・事業承継対策

(1) 自社株評価額の減少

 オーナーが自社株式を所有している場合には、相続税の財産評価上は、原則的評価額(≒純資産価額)により評価されることになります。そこで、オーナーの所有株式の一部を従業員持株会に譲渡します。従業員持株会は同族関係者ではないで、配当還元価額(一般的には原則的評価額に比べて評価額が低くなります)で譲渡することができます。これにより、オーナーの自社株評価額が減少することになります(具体例1参照)。
 また、譲渡による場合だけでなく、第三者割当増資(具体例2参照)による場合にも、自社株評価額を減少させることができますが、通常は、譲渡による場合に比べるとその効果は低いものになります。

≪具体例1≫譲渡による場合

 【前提条件】
 ・発行済株式1,000株(オーナー100%所有)
 ・200株(20%)を配当還元価額で従業員持株会へ譲渡
 ⇒ オーナー所有800株(所有割合80%)
 ・原則的評価額:200万円
 ・配当還元価額:10万円

 【計算】
    ① 売却前の評価額
     株式 200万円×1,000株=20億円
    ② 売却後の評価額
        株式 200万円×800株=16億円
        現金 10万円×200株=2,000万円
        合計 16億2,000万円
    ③ 減少額
          ① - ②=3億8,000万円

 
≪具体例2≫第三者割当増資による場合

 【前提条件】
 ・発行済株式1,000株(オーナー100%所有)
 ・第三者割当増資により新株200株を配当還元価額で発行して従業員持株会へ割り当てる 
 ⇒ 発行済株式1,200株 (オーナー所有割合83.3%)
 ・原則的評価額:200万円
 ・配当還元価額:10万円

  【計算】
  ① 増資前の評価額
     株式 200万円×1,000株=20億円
   ② 増資後の評価額
       (ア) 会社の一株当たり評価額
         200万円×1,000株+10万円×200株=20億2,000万円
         20億2,000万円÷1,200株=1,683,333円
       (イ) (ア)×1,000株=16億8,333万円
   ③ 減少額
       ① - ②=3億1,666万円

(2) 支配権の維持

 上記(1)では、自社株評価額を減少させるために、オーナーの所有割合も減少させましたが、所有割合は3分の2以上を維
持しているため、単独で特別決議を行うことが可能であり、実質的に会社の支配権は維持できている状態です。つまり、従業
員持株会を利用することにより、オーナーの自社株評価額を減少させ、なおかつ支配権を維持することが可能になります。
 さらに、従業員持株会へ譲渡・発行する株式として種類株式(例えば、優先配当の議決権制限株式)を利用することで、オー
ナーが議決権を100%維持し続けることも可能になります。また、優先配当株式を用いる方法は、普通株式に比べて高配当を
受けることができるため、従業員への福利厚生という趣旨を鑑みても、従業員から納得を得やすい制度といえます。

(3) 株式の社外流出の防止

 従業員持株会の導入にあたっては、株式の社外流出防止のため、規約に、退職時には従業員持株会が株式を強制的に買
い戻すことを規定しておく必要があります。
 また、その際の留意点として、買戻価額は、時価(原則的評価額)ではなく、配当還元価額等のその従業員が入会時に拠出
した金額に近い価額としておく必要があります。その理由は、従業員持株会は、通常、資金を持たない仕組みになっていめ、
買戻価額が高額になると株式を買い戻すことができなくなることや、次の従業員の参加が困難になる等、運営そのものが困
難になるためです。

3. まとめ
 今回は、相続・事業承継対策の観点から、従業員持株会の活用方法をまとめさせていただきました。
 なお、本文中にも記載させていただきましたとおり、従業員持株会の設立、運営には、法務・税務上の様々な手続きが必要であり、従業員持株会が形式的なものであると判断された場合には、様々なトラブルが発生することになります。そのため、従業員持株会を形骸化させずに、適切に運営することができるのであれば、従業員持株会は、相続・事業承継対策として、非常に効果的な方法であると考えます。

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